2007年2月アーカイブ

 直行展が始まって3ヶ月余り。すでに32,000人以上の方が直行さんに会いに来てくださった。そして、館内は今までにないほど土佐弁がこだましている。「チョッコウさんが・・・」「チョッコウさんは・・・」という来館者の声に、遠い北国で開拓農民や絵描きとして過ごした一人の男が、高知の人々にしっかりと受け入れられていることを実感している。
 思えば1年前には、直行さんは関係者だけが知っているような人だった。私が直行展を開催したいと強く思った3年近く前には、本当に限られた人しか知らなかったし、直行さんのみならず龍馬に子孫がいるということすら余り話題に上らなかった。
 龍馬のDNAを継承する人はたくさんいらっしゃる。また、親戚縁者も多い。龍馬を語る人、語らない人。それも様々。
 直行さんは郷士坂本家の跡取り八代目。坂本家という看板や、祖父の叔父に維新の英雄・龍馬がいたことは大きな重荷だったのだろう。実業家として厳格だった父への反発や山への強烈なあこがれが直行さんの半生を支えている。自分自身の生き方を貫いた姿勢は龍馬に負けない。

 直行展は佳境に入った。今月半ばに最後の入れ替えを終え、返却作業の段取りが頭に浮かぶ頃となった。これまでは開催や作品展示、来館者の受け入れ、各種の催しや販売のことetc。慣れない作業に慌しく毎日が流れていった。
 今ようやく、ひととき直行さんに向き合う余裕が出来た。直行さんの著書も再度読み返している。直行さんの言葉、風景、気持ちが風のように心に入ってくる。展示している絵画や写真、お宿帳(原野と市街地での30年間に約600人が直行宅を訪れ、泊まり、交誼を重ねている。その記録)、等々。それぞれの光景が生き生きと迫ってくる。分からなかったこともパズルのようにカチッとはまってきた。
 秋の農作業、冬支度に追われて、我が家の薪すら用意できずに、北風にさらされながら薪割をする直行さん。私もそんなふうに直行展の千秋楽を迎えるのかもしれない。それでも季節は巡る。
 春到来。春はいつも直行さんに新鮮な感動をもたらした。記念館はまもなく、直行さんとともに開館以来200万人目のお客様を迎えることになる。感動とともに春が広がる。

人気者は・・・

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 記念館の屋上。朝日を映して広がる美しい海を眺めていると、頭の中が音楽を奏で始める。ハーバートという作曲家のチェロ協奏曲。ソリストは大好きなチェロ奏者、その人柄を誰もが称えるヨーヨー・マ。優美な旋律と温かく深みのあるチェロの音色が海と溶け合う・・・。
 大好きな・・といえば、俳優のジョニー・デップの顔も浮かぶ。役ごとにがらりと表情を変える独特の演技に魅了される。おしゃれな着こなしのその腕には、彼の幼い娘さんが作ったというかわいらしいビーズのブレスレット。共演した子役の男の子は、「彼の誰にでも分け隔てなく親切にする姿勢を見習いたい。」と語っていた。
 そしてこの記念館の主役。言わずと知れた維新の英雄、坂本龍馬。彼は先見性や行動力だけでなく、心の広さも待ち合わせていた。龍馬を慕っていた志士、陸奥宗光は、頭が良すぎて人を馬鹿にするようなところがあり、嫌われることが多かったとか。しかし龍馬はそういう人でさえも温かく包み込んだ。器の大きな人物だった。龍馬が暗殺される2日前に書き残した手紙は、この陸奥に宛てた、趣味の刀談議。
 海を前に勝手に連想しただけの、全くつながりのないこの三人。でもどこか似通っているような・・・。
 それは魅力的な人柄とたぐいまれな才能とが相俟ってすばらしいものを生みだしていること!人を感動させ、惹きつけてやまず、勇気づけることさえある。
 しかも龍馬は時を超えて・・・。

89歳の山男

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 北大の山岳部で、直行さんを知る Iさんが館に来られた。
Iさんとは「直行展」開催直前に館でお会いしたのが最初である。
何より「89歳」と聞いて、お達者ぶりに驚ろかされた。
動作が速い。足腰がしっかりしている。
重そうなリュックをひょいと担ぐ。
さすが山岳部OB。
若かりし頃の片鱗を十分に窺い知ることが出来る。
 北海道の仲間に直行さんの図録をと、数十冊の図録販売までもお世話になった。

 2ヶ月ぶりの再会である。
顔を合わせるやいなや、 Iさんは握手を求めてきた。
 手の位置が胸の辺りまでくるアクションの大きい握手である。
「よかったじゃあないですか。立派、立派。ほんといい企画展です」
通路の真ん中で、他の入館者も思わず足を止めるジェスチャーであった。
しかし、うれしくてこちらもついつい声が大きくなっていた。

 第三会場、直行さんのアルバムコーナーに、直行さんが列車からタラップ伝いに降りてくる一枚の写真がある。プラットホームには友人らしい人影が数人。皆さん背広姿。改まった会議の流れか?が、よく見ると背広ズボンなのに靴は、不釣合いな登山靴ではないか。
Iさんが言った。
「あの写真、私が撮ったのですよ。山の遭難事故があって、北大山岳部OBの連中が捜索に参加しました。そのときの、スナップです」。
 Iさんは遠くを見る眼差しになった。瞬間、時計が逆回りして、止まったように感じた。

 月琴。「げっきん」と呼ぶ響きがいい。
「月」だから、白昼は似合わぬ。
満月の夜もよかろう。もっと黄昏どきの方がいいかも知れない。
いや、いっそ、そぼ降る雨の夜は?
  先日、坂本龍馬記念館で新年コンサートを計画した。
  題して「“オカリナと月琴・出会いのデュエット“」
 オカリナは本谷美加子さん、月琴は、ハープ奏者の大村典子さん。
 本来お二人の関係は本谷さんがメインで、大村さんが伴奏役である。
 たまたまの行きがかりで、大村さんが館所蔵の月琴を弾くことになった。
 館の月琴は、幕末の頃のものといわれる。
 展示してあるが、もちろん弾いた記録もない。
別の企画展で、月琴の展示場所がふさがり、点検したところ乾燥によるひび割れなどが見つかった。
 修理できたら当然音が聞きたくなった。1月28日はそれでなくてもオカリナコンサートは準備していたので、大村さんに月琴を渡したという次第。
 大村さんも初めての経験。それでも2ヶ月ほどみっちり練習していただいた。

 当日。会場は160人満席であった。
本谷さんのオカリナに酔いしれた前半、突然、オカリナが月琴に代わった。
大村さんが月琴を抱えていた。
「ぽろん、ぽろん」と幕末が弾き出された。
誰もがぐっと身を乗り出した気配が伝わってきた。
脳裏に、退廃と希望、殺戮と一時の平和が一つになって醸し出す幕末の場面が浮かんだ。
龍馬のために、お龍が奏でるのはこんな風ではなかったかと想像した。
 聞きながら龍馬は何を考えたのだろう。二人だけの世界。
黄昏の陽の射す座敷に手すりの陰が落ちている。
横になった龍馬は、目をつぶっている。軽い寝息が漏れた。
「ポロン、ぽろん・・」。
お龍は、もう少し弾いていようと思った。
今年名月の頃、もう一度コンサートを開く。心に決めた。

 私がこの記念館に来た当初からずっと気になっていたのが月琴という楽器の存在だった。果たしてどんな音が出るのか?非常に興味深く思っていた。そんな思いに答えてくれるかのように、1月28日、夕刻、桂浜荘の地下ホールでオカリナと月琴のコンサートが開かれた。お客様も160名近くの方が足を運んで下さり、その未知の音色への関心の大きさが感じられた。

 本谷美加子さんのオカリナと大村典子さんのサウルハープの演奏が始まると、えも言われぬ心地好い響きが会場を包み込んでいった。
 サウルハープの“サウル”という名称は旧約聖書から由来しているそうで、絵画などに見かける、膝の上にかかえて演奏出来る位の大きさの發弦楽器である。その音色は限りなく豊かで愛らしい。

 そして月琴もリュート属の發弦楽器であり、中国の阮咸から派生したもので義甲を用いて演奏する。音色はと言うと、“ドレミファソラシド=ヒフミヨイムナヒ”のファとシにあたる“ヨとナ”を抜いた“ヨナ抜き音階”で演奏される。その少し調子はずれのたどたどしい音色にはリュートほどの響きはなく、三味線のような強さもない。けれども爪弾かれる音の世界には幽玄の世界が深く漂っていた。
 140年以上も前の江戸時代末期に、龍馬のために奏でたお龍さんの月琴の音色。月琴は聞く側の想像力が膨らめば膨らむほど楽しめる楽器だとも思う。まるで音を耳にして舞台を見ているような気分になった。

 もっと色々な月琴の音色を聞いてみたいという想いが募る。前にも増して月琴の背景と魅力を探求してみたくなった。

去る人、来る人

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 館に9年勤めたベテラン職員のTさんが、退職された。といっても現役引退というのではない。家庭の都合で職場を替えるのである。人柄、仕事ぶり、誰もが“やり手”と認める人材だっただけに、館にとっては、しばらく痛手を引きずることになった。
 彼女Tさんは最後まで仕事の引継ぎに追われていた。
 少しでも抜ける穴を小さくするため後任を募集した。およそ40人の中から期待を込めて一人を選んだ。
 先日、歓送迎会も終えた。
 館は新メンバーを加えて、新体制がスタートした。
 春三月、桜散る別れの季節が、館には一足早くやってきた感じである。
 館の南端、“空白のステージ”に立って、龍馬の見た海を眺める。今日は水平線くっきり。このところ漁があるのか、漁船が多い。波間に張り付いている。30隻は下らない。うねりは長い帯になって水平線から寄せてくる。眼下の松の枝が揺れた。わずかに風あり。
 自然に両手は腰の上、足は半開きの“龍馬のポーズ”。
 時代の波、季節の波を感じている。
 「去る人」「来る人」。二人のパワーをもらって、坂本龍馬記念館は前に進む。

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