2008年6月アーカイブ

「旅」を一言で言い表すのは難しい。観光を目的とした旅、思い出を巡る旅、気持ちをリフレッシュさせるための旅、自分を見つめ直す旅、修行の旅…。旅の表情は色々ある。
龍馬も多くの旅をしている。特に、京都での死を迎えるまでのわずか5年間の間に福井、京都、下関、熊本、長崎…西へ東へ北へ南へ、新しい日本を夢見て命懸けの旅を続けた。
人間以外の生き物も旅をする。しかしそれは生きるための旅。寒い場所から暖かい場所へ、食べ物の少ない場所から豊かな場所へ、子育てをするのに適した場所へ。
彼らは旅をしなければ生きてはゆけない。
だが、人間は旅をせずとも生きてはいける。
でも、旅することで生きる勇気や元気のエネルギーを得る。

これは、私の推測でしかないのだが、太古の昔に生きていた私達の祖先の記憶がそうさせるのではないだろうかと思う。身体の中に刻み込まれたDNAが騒ぎ出すのかも。最近、日米英の国際研究チームが人間の祖先が「ホヤ」よりも、ヒトなど脊椎動物の祖先「ナメクジウオ」に近いと突き止めたという記事を見た。「ナメクジウオ」は実にヒトと遺伝子の6割が共通しているという。
つまり、何億年経った今でも人間も、そして人間以外の生き物、いずれも生き物としての原点は変わらないといえるのではないか。結局、生きるために旅をし続ける“運命”なのかもしれない。
旅する理由は変わろうともである。そう、龍馬は時代を超えてまだ「旅」している。

風になった龍馬

 6月は一年で館が一番静かな時期である。
梅雨の真っただ中。
駐車場に停車している車の下で、野良猫が雨宿り。
時は静かにけだるく流れていく。
 2階フロアに上がってみる。
「近江屋」のセットが妙にシンと鎮まっている。
若い学生風、女性の二人ずれが無言で部屋を見つめていた。
頭の中にそれぞれの龍馬と慎太郎がいるに違いない。
ひとりが、ゴックンとつばを飲み込んだのが分かった。
それを合図に、二人はふわりとその場を離れた。

 気が付いた。
館内に音楽が流れている。
緩やかに、緩やかに、疲れをとかすように。
「出会いの達人・龍馬」展に合わせて2階で開催中の「もう一つの展覧会」展。
歴史資料の中に、現代作家の作品が架かっている。
絵画、書道、俳画そして音楽も。
そう、流れているのは、
シンセサイザー奏者、西村直記さんの「風になった龍馬」だ。
西村さんは、この展覧会に龍馬をイメージして10曲を用意した。
それが、エンドレスで回る。龍馬の世界である。

 さっきの二人づれが、並んで“龍馬の見た海”を眺めていた。
曲は「龍馬フォーエバー」に変わった。

身近なヒーロー

「お久しぶりです。昨年結婚して、今日はヨメさんと一緒に来てみました。…」
「お久しぶりですね…。7年ぶりになりますか…。…」
「龍馬さん、久しぶり!…」
これらはすべて、「拝啓龍馬殿」に寄せられたメッセージの一文。

ときに、“英雄”とまで称される龍馬。
“英雄”と言えば、ナポレオン。
だけどナポレオンに、「ナポレオン、久しぶり!」と語りかけたり、
「結婚しました。」と報告する人はいないのではないだろうか…。

龍馬の最大の魅力、それは“身近に感じられる”というところだ。
そこが、他の“英雄”と呼ばれる人たちと違っている。

土佐の郷士の次男に生まれた龍馬は、特に恵まれた環境にいたわけでもない。
でもほんのちょっとだけ大きな夢を持っていて、
様々な人たちとの出会いの中で、色んな知恵・考え方を吸収して行動した結果、
日本の歴史を動かすことにつながった。

特別ではなく、龍馬より年下の人にとっても、年上の人にとっても、頼れる・憧れのお兄さん、
それが、世界で唯一の“身近なヒーロー”坂本龍馬なのだ。

独り言XⅢ

 今、開催中の「出会いの達人・龍馬」展にアクセントをつけるねらいで、館の2階スペースを使って「もう一つの展覧会」展というのを始めた。展覧会に重ねての展覧会だ。これは以前、館のギャラリーで企画展をお願いしたアーティストの先生方に“出会い“をテーマに新たに作品を制作して頂き、その作品を常設展示空間に置こうという試みである。
 各先生方のメッセージパネルを作るために、制作現場をのぞかせていただき、写真を撮った。書の先生宅では部屋に入るなり、すりだちの墨の香りに足が止まった。精神的にとても落ち着く筋の通った芳香であった。そこから生まれた作品は、非常に勢いよく大胆で、男性的に思えた。次は洋画の先生のアトリエ。油と絵の具の匂いがプーンとして、自由に動く筆のタッチに懐かしさを覚えた。

 作曲をお願いしてあった先生からは“風になった龍馬”というタイトルの楽譜が届いた。ト長調のメロディーだけがModeratoでと記されている。早速ピアノで弾いてみた。生まれたての音符たちから聞こえてくる主旋律は、優しく、柔らかく頬を爽やかに撫でてゆく風のような龍馬だった。

 作家の制作現場を拝見出来るというのは、特別な空間の貴重なエネルギーを感じ取れる、私にとってはわくわくさせられる場所で、かつて舞台装置を制作した時と同じ感情である。そのエネルギーの集結が一枚のパネルになる。龍馬が引き合わせたアーティストの面々、皆さんそれぞれになんとも魅力的なお顔をされていると思うのです。会場でお楽しみください。

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